100人の嗜好に合わせて100人がおいしいと感じられる酒が一般的には理想なのかもしれませんが、私たちは自ら飲んで本当に美味しいと思える酒を造りたいと思い、酒の造り手として、料理を活かしつつも、料理と共に記憶に残るような個性ある酒を追求しようと考えております。私たちは、良いものを少しだけ造るというコンセプトのもと、日本酒独自の伝統や歴史を守りながら新しい技術も取り入れ、常に進化する酒造りを目指します。

 米と水から造る純米酒は、造っても飲んでも楽しい酒です。良い米と良い水、この自然の恵みを生かすことができれば、それだけで美味しい酒ができるはずです。山と田んぼに囲まれ、蔵近くの山からこんこんと自然水が湧出する恵まれた環境の中、私たちは人の手をかけた手造りの酒造りに取組んでおります。口に含んだ瞬間、緑豊かなの里山の風景が思い浮かぶような、お日様と田んぼの恵みを感じられる酒を醸したいと考えております。

 酒の一生は、新酒が出来た時点で30%、瓶詰め・火入れ・貯蔵の段階で60%、信頼の置ける酒販店様や飲食店様を通じて「美味しい!」とお客様に笑顔で楽しんでいただいて初めて100%になると考えております。酒の一生を見守るのが私たちの役目。気の合う仲間と一緒に楽しむ場を盛り上げるような酒をイメージしながら、単に造りのみで完結するのではなく、その先にあるコミュニケーションを思い起こさせるような酒を醸したいと考えております。

 私たちの考える理想の酒は、外行きではない普段着のような感覚で、肩肘張らず気軽に楽しめる酒です。高級料理店でワイングラスと共に楽しむ日本酒も魅力的ですが、普段は無造作に茶碗に注いで飲むような日本酒の方が性に合っています。例えるならば、たまに着るよそ行きのドレスよりも、毎日着られて心地のいい、カジュアルでありながらも上質なTシャツのような酒を醸したいと考えております。

「萩の鶴」「日輪田」ができるまで

原料(米・水・酵母)

 美味しい酒は、良い米と良い水から造られます。米は宮城県で開発された酒造好適米「蔵の華」のほか「美山錦」「雄町」「山田錦」などを使用しています。水は自社所有地の山から豊かに湧出する自然水(軟水)を蔵まで直接引いて使用し、酵母は目指す酒質に合わせて「宮城酵母」「協会酵母」などを使用しています。

洗米・浸漬・水切り

 洗米は、精米した白米の表面についている糠などを洗い流す作業です。精米されて小さくなった米は水を吸いやすいため、「スタート」の声と同時にストップウォッチを用いて秒単位で吸水時間を計りながら、蔵人達が息を合わせ、手早く洗います。
 洗米後は冷たい水に浸けて、適量の水を吸わせます。この浸漬時間は米の種類や硬さ、用途などで異なるため、米の状態を人の目で確認しながらタイミングを見極め、水切りをします。米の吸水歩合は、以後の製麹過程やもろみの発酵経過に大きな影響を及ぼすため、より正確な吸水が大変重要になります。

蒸きょう・放冷

 適度に吸水させた米は、翌朝こしきに入れて蒸し、蒸米にします。蒸し上がり直前は乾燥蒸気で一気に加熱することで、「外硬内軟(がいこうないなん)」と呼ばれる理想の蒸米に仕上げます。
 蒸し上がった蒸米はこしきから専用のスコップで掘り出し、麹米、掛米等の用途別に分けます。そして蔵内に広げて自然の冷気で放冷し、それぞれの仕込みの理想温度になるよう調整します。

製麹(せいきく)

 蒸米に麹菌の胞子を種付けして繁殖させ、米麹を造ります。酵母がアルコール発酵する際に必要なブドウ糖は、米には含まれていません。米に含まれるデンプンをブドウ糖に変える役目を果たすのが「麹」です。酒蔵の一角にある「麹室」と呼ばれる麹菌が繁殖しやすい温度に調整された部屋で、蒸米に麹菌の胞子を均一にまいて良く混ぜ、温度も均一になるよう人の手で揉みほぐしてやるなどの作業をして、麹米の温度を慎重に調整しながら、約2日間かけて米麹を造ります。目指す酒質によって様々ですが、麹菌の菌糸が米の内部までよく繁殖し、造り手の求める最適な糖化力を備えたものが、良い麹と言えます。麹の糖化力は、以後の発酵過程に大きく影響するため、製麹は酒質を左右する重要な作業です。

酒母(速醸酛・山廃酛)

 米麹に蒸米、酵母、水を加え、健全な優良酵母を純粋培養し、もろみのもととなる酒母を造ります。もろみで順調に発酵を進めるためには、多量の乳酸によって雑菌の繁殖を防止し、大量の健全な優良酵母を増やす必要があります。そこで、あらかじめ優良な酵母をふやした「もと(酒母)」をつくっておいて、これを使ってもろみを仕込むのです。酒母造りは、まさに酒の元を造る大切な作業です。
 現在広く用いられている酒母は「速醸酛」と呼ばれる酒母で、約2週間で完成します。スッキリとした酒質になりやすく、キレイで現代的なお酒に向いています。また、求める酒質によって昔ながらの生酛(きもと)の流れを汲み、最近では少なくなった「山廃酛」も使用します。こちらは「速醸酛」に比べて手間がかかり、完成までに約1カ月かかりますが、独特の酸味やどっしりとした深い味わいのお酒に向いており、この2種類を使い分けています。

もろみ

 酒母に米麹、蒸米、水を4日で3段階に分けてだんだん量を増やしながら仕込みます。1回目を「添(そえ)仕込」、1日おいて(踊り)2回目が「仲(なか)仕込」、3回目が「留(とめ)仕込」と言い、徐々に原料の量を多くして仕込みます。このように3回に分けて仕込むことから「三段仕込み」と呼ばれています。蒸米や麹、水を一度に全量仕込むと、酒母で増やした酵母の濃度が急激に薄まります。酒母の段階で増やした酵母の数が多いことで雑菌を封じ込めることにより汚染を防いでいますので、酵母の濃度が一度に薄まらないようにするための、先人の知恵です。
 仕込みの終わったもろみは、米麹の酵素によってデンプンをブドウ糖に糖化させ、そのブドウ糖を使って酵母がアルコールを生成します。タンクの中で「糖化」と「アルコール発酵」が同時に進む「並行複発酵」と「三段仕込」によって、世界でも稀に見る高いアルコール度数を得ることができるのが日本酒の大きな特長です。なお酵母のアルコール発酵は、一般的に温度が高いほど旺盛となり、温度が低いと緩慢になります。目指す酒質に合わせた温度で、糖化とアルコール発酵を進めることが大変重要になります。大吟醸のような香り高いもろみの場合はより低温で、一般的な純米酒等では、それよりやや高めの温度で調整しながら発酵を進める必要があります。
 萩野酒造では、1本の発酵タンクに仕込む米の総量が600㎏~1000kgと少なく、細やかな温度調整をしながら丁寧に仕込んでいます。もろみは最高温度が11~14℃前後で、約22~25日前後(大吟醸の場合は30~35日間)かけて発酵させています。米からできるだけ多くのアルコールを得ようと思えばアルコール度数は約20度以上まで高められますが、その分だけ酒の質は荒くなってしまいます。そのため、大吟醸酒では16度台前半、大吟醸酒以外でも高くとも18度までにアルコール度数を抑えています。
 発酵期間中は、発酵中のもろみを少量直接口に含んで甘さや溶け具合を確認したり、毎日もろみを採取し、日本酒度・酸度・アミノ酸度・アルコール度・グルコース濃度を分析し、場合によっては酵母の死滅率を測定します。発酵はある程度までは温度管理などでコントロールできますが、あくまで生き物相手ですので、完璧に目標通りというわけにはいきません。各段階の目標からのずれを早期に発見し、正確に対応することを大切にしています。

しぼり・滓(おり)下げ・瓶詰め・火入れ・瓶貯蔵

 発酵が終了したもろみをしぼり、酒(液体)と酒粕(固形物)に分離します。大吟醸酒では約50%が酒粕になります。なお、しぼりの段階で、酵母などもこしとられます。萩野酒造のしぼり方には2種類あります。一つは、全国の酒蔵で最も一般的な自動圧搾ろ過機を用いるしぼり方で、もう一つは、綿製の袋にもろみを入れて小さなタンクの中に吊るし、自然の重力のみで滴り落ちてくる部分だけを取る贅沢な袋しぼりです。
 しぼってすぐの酒には滓(濁り)があるため、滓が自然に沈澱するのを1~2週間ほど待ちます(滓下げ)。滓下げをした酒は、目指す酒質によって必要に応じた濾過を行う場合がありますが、萩の鶴・日輪田の多くは活性炭濾過をしていません。濾過は、蔵元の目指す酒質を達成する上での重要な工程でもあり、それぞれに最適と思われる方法が取られています。
 その後、1本1本丁寧に瓶詰めして火入れをします。この火入れのタイミングの見極めもお酒の味を大きく左右します。火入れ前のお酒には麹菌の糖化酵素がまだ生きているため、そのままにしていると糖化によって徐々に甘さが増していくと同時に、熟成も早く進んでしまいます。火入れは、雑菌を死滅させる目的のほかに、麹菌の酵素を失活させる役割もあります。そのため、味と香り、グルコース濃度等を確認して適度な熟成具合を見極め、ベストなタイミングで火入れを行います。

 酒の熟成具合は積算温度で決まるため、火入れをした瓶は直ちに冷却され、瓶のまま冷蔵庫で貯蔵します。高コストで非常に場所を取りますが、タンクで貯蔵するよりも瓶で貯蔵する方が、空気と触れる面積が小さいために熟成が進みにくく、貯蔵する時間と温度で細やかに熟成具合をコントロールできるメリットがあります。(冷蔵設備が有っても、熟成を早めるためにあえて常温でタンク貯蔵をする蔵元さんもいらっしゃいます。)そして、目指す酒質に合わせて熟成具合を見極め、ベストと思われるタイミングで出荷します。
 そして信頼の置ける酒販店様や飲食店様に、まるで娘を嫁に出すような気持ちで出荷し、お客様に「おいしい!」と喜んでいただいて、「萩の鶴」「日輪田」は完成します。

■萩の鶴

 ここ金成有壁(かんなりありかべ)は、その昔「萩の村」と呼ばれていました。その名の通り萩の花の美しさで知られ、今でもたくさんの萩が見られます。そこから「萩」をとり、縁起のよい「鶴」と組み合わせて名付けました。昔から地元で幅広く愛されてきた当蔵の中心銘柄で、宮城らしいキレイでスッキリとした飲み飽きのしない酒質を目指します。味の濃すぎない上品な和食や、クセの強過ぎない新鮮な海の幸等と合わせて欲しいお酒です。

■日輪田

 平成14年から全量純米造り、販売店限定でスタートした銘柄。「日輪田」とは、古代神に捧げる穀物を育てたまるい田のこと。「お日様」と「田んぼ」の恵みを皆で「輪」になって楽しんでほしいという意味も込められています。米の旨みを大事にし、食中酒として飽きの来ない味わいに仕上げました。気の合う仲間と肩肘張らずに楽しめる、カジュアルで上質な純米酒を目指します。少し濃いめに味付けした里芋やふきの煮物、ぬか漬けや程よく熟成した沢庵のような田舎料理と合わせて欲しいお酒です。

≫詳しい商品紹介はこちら


※『宮城の新聞』にくわしい取材記事が掲載されておりますので、よろしければそちらもご覧ください。
【宮城の新聞】米と水から生まれる日本酒のふしぎ~萩野酒造(宮城県栗原市)を訪ねて~